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岡山県教育委員会 教育長からのメッセージ

印刷ページ表示 ページ番号:0812678 2023年4月4日更新教育政策課

これからの教育でもとめられるもの(タイトル)

 皆様、こんにちは。岡山県教育委員会教育長の鍵本です。
 令和5年度のスタートに当たり、御挨拶を申し上げます。

 新型コロナウイルス感染症は、ようやく感染者数も減少しており、本県の学校においても、新学期からは、学校教育活動の実施に当たって、マスクの着用を求めないことを基本といたしました。これは、何も対策をしなくても良いということではなく、これからも基本的な感染対策を続けながら、子どもたちには、楽しく充実した学校生活を送ってもらいたいと考えているということです。

 そして、こうした中で皆さんにお願いしたいとても大切なことがあります。子どもたちやその周りの皆さんの中には、重症化する可能性のある病気の人や新型コロナウイルスに感染することを不安に思っている人など、マスクを着けたい人がいます。また一方で、これまでもそうでしたが、マスクを着けることで息苦しさを感じる人や、マスクが顔に触れることが気になる人など、マスクを着けることができない人もいます。今後は、個人の判断でマスクを着ける、あるいは着けないことを決めていくわけですが、マスクを着けていること、あるいは着けていないことをもって、人を傷つけたり、いやな思いをさせたりする言動が絶対にあってはならないと思っています。

 新型コロナウイルス感染症について、これが絶対正しいというもののない中で、みんなが不安を感じつつ、それでも前向きに考え、元の生活にもどしていかなければならないと思って生活しています。その感じ方や考え方は、一人ひとり違うものですが、それぞれに尊重されるべきものだと思っています。
 そして、このことは、子どもたちに対しても、しっかりと伝えていかなくてはならないと思っています。誰一人悲しい思いをすることがないよう、みんなが笑顔で学校生活が送れるよう、皆さんのご協力をお願いいたします。

 

 さて、ここでは令和5年度の初めにあたり、今年度本県の教育の中で特に力を入れて進めていこうとしていることについて、お話したいと思います。

 我が国のいわゆる「日本型学校教育」は、学習指導のみならず、生徒指導等の面でも重要な役割を担い、子どもたちの状況を総合的に把握しながら、知・徳・体を一体的に育む全人的な教育を実現し、諸外国からも高い評価を得てきました。このことに、私たちは大いに誇りを持っていいと思いますし、その良さを受け継いでいかなくてはならないと思っています。
 しかし、その一方で、これまで我が国の教育では、その経済発展を支えるために、「みんなと同じことができる」「言われたことを言われた通りにできる」上質で均質な労働者の育成が求められ、その中で「正解を暗記すること」の比重が高くなった結果、「自ら課題を見つけ、それを解決する力」を育成するための、「他者と協働し、自ら考え抜く学び」の保障が十分できていないのではないかという指摘が、なされるようになりました。

 先日、陸上の元オリンピック選手である為末大さんが、このような内容のことを書かれているのを読みました。

 「日本の子どもと、アメリカなど海外の子どもにスポーツを教えたときに、ルールのことを話すんです。日本の子どもたちの一番象徴的な点は、コーチに最初に『何をやっていいんですか』と聞くんですね。ほとんどの国では『何はやっちゃいけないんですか』と聞くんですね。これは全然違うことで、つまり許可された範囲を生きていくのか、自由が基本で許可されてない部分がある中で生きていくのかで、もう広がり方が全然違うわけですね。ずっと許可を求めて行動していくということは、世界の広がり方も人生の進み方も、なんなら時には『自分の人生はどこまでやっていいですか』と聞いてしまうようなものなんで、これは決定的に不利だと思いますね。ただ、日本の教育は全て問題だとは思わなくて、8割方すばらしいと思います。残りの2割は、ちゃんと自分の意見を言ってリスクをとって何か変えてみようということをやって、実際に言えば変わるんだと、行動すれば変わるんだという体験をすること。その体験をもとに社会に出てもみんなで社会を変えていこうとなること。スポーツにおいても、それを超えてでも大事なことだなと思います。動けば変わるという経験を、とにかく教育プロセスで1回でも体験するべきだと思います」

 ― 為末大 note「社会を変える体験をすること」(https://note.com/daitamesue/n/n0a4e6e607ef6)より引用


 我が国の学校では、これまで「みんなで同じことを、同じように」ということを過度に要求する面があったため、学校生活における「同調圧力」に、息苦しさを感じている子どもたちもいます。
 私は、現在我が国において、不登校の子どもたちが増加していることと無関係ではないと思っています。

 上智大学の奈須正裕先生が、ご一緒させていただいた会議の中で、ある不登校の子どもの言葉として紹介された「学校には、やらなきゃいけないことと、やっちゃいけないことしかない」という言葉がとても印象に残っていて、色々な場面で紹介させていただくのですが、おそらく為末さんのおっしゃっていることと同じことを言っているのだと思います。

 このことは、とても重要な指摘であり、これからの「先を見通すことが難しい時代」にあって、答えのない問いに立ち向かっていく力を、子どもたちにしっかりと身につけさせるために、私たちが進めている岡山県の教育の中においても、このことをしっかりと意識し、その改善を図っていかなくてはならないと考えています。

 これから始まってまいります令和5年度に、知・徳・体のバランスの取れた子どもたちの育成を進める本県の教育で重点的に進めていきたいことは、次の3点です。

(1) 基礎基本となる知識・技能を確実に習得させることと併せて、PBL(課題解決型学習)を推進することで、自分の頭で考え、自分の言葉で語り、自分の意思で行動できる児童生徒を育成すること

(2) 誰一人取り残すことなく、一人ひとりに応じた学びの場を確保していくことで、不登校など困難な状況にある児童生徒の支援を充実すること

(3) 心身ともにバランスよく健やかに成長できるよう、運動することが楽しいと感じられる機会を全ての児童生徒に保障し、体力を向上させること

 そして、先程申し上げた「我が国の教育」の課題と併せて考えるならば、こうした取組を進めていく中で、本県の教育において、特に注意して進めていかなくてはならない点も見えてきます。

 まず、PBL(課題解決型学習)の中で、一人ひとりの子どもたちに「自己決定していく場」を作り、その経験を積むことで、自ら設定した課題を、まわりの友人や多様な人々と協働して解決していく力を身につけていくことがとても重要になってくると考えています。

 「同調圧力」や「正解主義」から解き放たれ、自由な発想で探究を進めていける子どもたちを育てていくためには、学校現場の先生方が、これまでの「日本型学校教育」の良さは大切にしながら、その中に、学習を子どもたちに「委ねる部分」を作り、その過程の中で子どもたちの「自己決定」を促していくことが、とても大切だと考えています。

 その実践の場が、まさにPBL (課題解決型学習)であり、これは夢や目標を持ち、主体的に学びながら、それへの挑戦を続けていく本県の「夢育」へと繋がっていきます。
 また、こうした取組を進めるための時間的な余裕を生み出すためにも、ICTを活用して、学習指導や校務の効率化を図るとともに、一人ひとりの状況に応じた、個別最適な学びを進めていくことも必要だと考えています。

 ICTを活用することで、「みんなで同じことを、同じように」という学びから、個別最適な学びとすることが可能となり、不登校や障害のある子どもたちなど、困難な状況にある子どもたちに対しても、その子に応じた支援ができるようになります。

 このように、知・徳・体のバランスの取れた子どもたちの育成は、本県教育の根幹でありますが、これを、さらに効率的・効果的に進めていくために、PBL(課題解決型学習)の推進や、ICTを活用した取組が必要となってまいります。

 教師の学びは、子どもたちの学びと相似形であると言われます。「自分の頭で考え、自分の言葉で語り、自分の意志で行動する」子どもたちを育成するためには、まず私たち自身が、主体的に今、子どもたちの教育に何が必要であるのかを考え、周りの人々と力を合わせて、私たち自身の答えを見つけ出していく必要があります。

 私も全力で取り組んでまいります。
 皆様のお力添えを、今年度もよろしくお願いいたします。

令和5年4月1日    
岡山県教育委員会教育長
鍵本 芳明